小さい命を助けたいとおもうことは悪いこと?
獣と仲良くなることはいけないこと?
掟より忠告より、自分の気持ちを大切にしてはいけないの?
少女エリンが母の死を乗り越え、傷ついた王獣と運命的な出会いを果たすまで。
なぜ、「王獣規範」は絶対なのか――?
すごく面白かった ファンタジーの素敵さが詰まってる作品
獣の奏者は、上橋菜穂子さんの傑作です。
あんまり傑作傑作言ってると手垢がついてしまいそうですが、このオハナシは傑作です。
たくさんの大人と子供に読んでいただきたい。そっと背中を押していきたい。ページをめくっていただきたい。
そんなわけで、オススメ記事を書きます。
というわけで、今回の記事はあらすじアリのネタバレなしでお送りいたします。
獣の奏者のネタバレなしのあらすじ
【闘蛇編】
エリンの母ソヨンは闘蛇の村の「獣ノ医術師」として活躍していた。
しかし、ある日闘蛇の大量死が起こり、特に大切にされていた「牙」と呼ばれる闘蛇も死んでしまう。
責任をとらされ、処刑されることになってしまうソヨン。悲しすぎる、辛すぎる。
エリンはソヨンを助けようとするが、逆にピンチに。
生死の境をさまようエリンだが、蜂飼いのジョウンという、いいかんじのおっさんに拾われる。
エリンは蜂飼いの仕事を手伝ううちに自然の不思議に魅せられていく。世界は素晴らしいもんね。
ある夏、エリンは野生の王獣を目にし、その姿に心を奪われてしまう。
そして、母と同じ「獣ノ医術師」となるため、難関を突破しカザルム王獣保護場・学舎に入学。
はじめての友達と友情を深めたりしつつドキドキの学園生活を送るエリン。
そこへ傷ついた幼い王獣のリランが運ばれてくる。
どうしてもエサを食べないリランの世話をまかされるエリン。責任重大。
「生きて欲しい。お願い、エサを食べて…!」
【王獣編】
闘蛇編が中途半端に終わってビックリしましたか?
これ、原作通りなんです。けっこうすごいとこで切れるんですよ。
野生の王獣の観察経験を生かし、創意工夫をもってリランを救ったエリン。
しかし、そもそも王獣は育て方、管理全てを「王獣規範」という厳格なルールにのっとって行わなければならなかった。
王獣規範なにそれ美味しいの? 状態になってしまったエリンとリランは母と娘のようにして仲むつまじく育っていく。
ある日、エリンは母の一族と同じ霧の民から
「王獣は決して人に馴れず、決して人に馴らしてはいけない。
人に馴らせば、必ず大きな災いを呼ぶ」 と警告を受ける。
今更リランをひとりになんてできない! と考え、警告を拒絶するエリン。
しかし他の王獣とは異質な存在となってしまったリラン。
リランと心を通わせることのできるエリンは政治の道具として、大きな陰謀と時代のうねりに巻き込まれていく。
獣の奏者は、なぜこんなにも傑作なのか
「わたし、ファンタジーは苦手なんだよねー」という人にこそ読んで欲しい。
いわゆる「剣と魔法」のお話ではありません。
おすすめです。本当です。
実際にはいないケモノが出てきたり、ちがう生活習慣をもった人たちが出てくる、けれど「リアルなものがたり」がつむがれています。上橋菜穂子さんの書く物語は、いつもファンタジーという設定に甘えないお話。
わたしは、ファンタジーが物語として優れているところがあると思っていて、それは『架空の設定や舞台装置を使うことで、作者の届けたいものが届きやすい』という点です。
どういうことかというと、獣の奏者を例にとると、私たちの世界には王獣や闘蛇はいない。だから、戦争のために飼われている闘蛇と、闘蛇のために作られた村もない。
もし、この現実世界にそういった村があったとして、それをモチーフに物語を書いたとしたら、その「事象」に付随するあれこれ(例えばありそうなこととして、動物虐待や兵器の是非など)の価値観が入ってきて、作者が書きたかった「物語」に入り込めない場合がある。
その点ファンタジーは、その世界の常識をこちらが察して受け入れ、入り込んで読むものだから、自分の価値観以外にその常識とぶつかるものはない。「世の中の常識にとらわれずに物語を楽しめる」ということがとても大きいと思う。
「獣の奏者」は作者の「物語に連れていく力」が強く、ストーリーは読者を引き込んでいく。登場人物の感情は真に迫って、私たちは同じ思い、気持ちを共有することができる。だから「ファンタジーは読まない」人がなぜ読まないのか、それは人にもよるし分からないけれど、そういう人にも読んでほしいと思う作品なのです。
「傑作ファンタジー」にふさわしい。ドキドキと勇気にあふれた物語
あらすじはただのあらすじであって、それは本を読んだってことにはならない。
エリンが、ソヨンが、他の登場人物がなにを思って悩んで決断をしたか。
そして、その結果、動いていく現実にどう立ち向かうのか。
その気持ちに触れて、そのストーリーに出会って、心が動く。
その時、わたしたちは「本を読んでいる」のだと思います。
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