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『烏に単は似合わない』アマゾン星1を受けてのレビュー 

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以前から気になっていた、八咫烏シリーズの烏に単は似合わない  八咫烏シリーズ 1 (文春文庫)を読みました。

けっこう楽しく読めたのですが、読後すぐの感想は『なんだかちょっと不思議だし分からないこともあるな。人にオススメするかと言われれば、人を選ぶな…』というものでした。で、他の人の感想や解説を求めてアマゾンのレビューを見てみたところ、それがちょっとおもしろい結果でした。

レビューの結果ですが、★2~★5が13%~22%でだいたい横這いなのに対し、★1の数は35%とかなり多い割合。他の作品で、★5と★1だけがとびぬけているものや、全体がまばらになっているものは、レビューとしてよく見る形ですが、全体的にはばらけていて、★5の人の絶賛のレビューに対し、明確に★1が多いのはちょっと面白いと思ったのです。

人によってかなり評価の分かれる作品で、しかも星1の低評価が一番多い。

自分の感想(「けっこう面白い」が「よくわからない」)についても整理できたので、『烏に単は似合わない』は絶賛する人がいる一方でなぜ低評価レビューが多いのかについて書いてみました。読了済みの人、わたしと同じ感想を持った人、見てってください。

あ、毎度のことですが、とくに今回はがっつりネタバレアリの記事ですよ。

目次

まずはわたしの感想を少し

タイトルの単衣という単語や、姫、女房という言葉から異世界の朝廷もの? 平安時代をモチーフに使った異世界? と思いながら読みはじめました。

ストーリーの軸は若宮が誰を嫁に選ぶのか? ということで、徹底して、あせびの君が選ばれるぞー! というテンションで進んでいきます。が、ところどころに引っかかるところがあり(後述します)、タイトルの意味を含めて全て回収しないと許さない、と思いながら読み進めました。

結果から言えば、それらはおおまかには回収されたため、最終的に「ちょっと納得できないところはあるけど、面白かったな~」という感想に落ち着きました。これは、わたしが「作者の想定にハマった読者」だからだと思います。

この後、アマゾンレビューに対しての考察で詳しく述べたいのですが、この作品のラストを「アリ」に思える人は『作者の想定している読者』にハマった人たちです。「烏に単は似合わない」は叙述ミステリーのようなのですが、それともちょっと毛色が違う作品でした。

たとえばどんでん返しの傑作イニシエーション・ラブ (文春文庫)などと違うところは、伏線がすべて細やかに潜み、ラストで全てひっくり返るのではなく、むしろ逆に、堂々と違和感をはさんでくるところです。

これはもちろん作者の意図的なもので「作者の想定にハマった」読者はその違和感を数えながら、そして「なのに王道の展開」で進んでいくストーリーに「?」を覚えながら読み進めていきます。

この違和感を拾えなかった読者はラストが超展開すぎてついていけません。また、拾いすぎた人は納得できないことが多すぎて許せません。レビューの星の数のバラつきには、この側面がかなり大きく影響していると思います。

アマゾンレビュー星1 低評価の原因は?

★1レビューのおそらく全てに目を通したのですが、この原因は

  • あおりが過ぎたため
  • 表紙の(ある意味)詐欺が秀逸すぎた
  • 作者の意図と読者のミスマッチ
  • 詰め切れていない設定と足りない描写(説明)

で起きていると思います。

あおりが過ぎた 十二国記に匹敵はちょっと言い過ぎ…

★1をつけている人のかなりの人数が「十二国記に匹敵する」のあおりに憤っているようでした。これが帯についていたのか書店のあおりなのかは分かりませんが、もしこのあおりに釣られて買っていたのなら、わたしも今★1のレビューを書いているかもしれません。

正直、「十二国記に匹敵する」はちょっと言い過ぎ……、というよりも、比べるものではなかったと思いました。この作品は(十二国記のように)ファンタジーを楽しむものでも、作りこまれた世界観を楽しむものでもなかったからです。十二国記を期待してお金を出した読者が裏切られたと感じて憤るのは当然だと感じます。これは出版社のせいで作者のせいではないと思いますが…。

かなり売れたようなので戦略としては成功したのかもしれませんが、違う形で手に取っていたら愛してくれた(かもしれない)ファンを切り捨てたことは、間違いないと思います。

十二国記についているファンは濃いファンが多いので、そこに向けて訴求するのは作品イメージ的にはあまり良い手とは言えないのでは? と思います。

こう……、作品愛的に、具体的な作品と比較するようにプロモーションするのは、誰も得をしない選択ですよね。だって絶対「こうじゃない」ってなる人が出るものね。

表紙と序盤の「朝廷もの」っぽさがあだに

これは不幸な事故なのかもしれませんが、★1のレビューの中には「朝廷ものを期待して読んだのに、全然なってないから入り込めなかった」という声も多かったです。

例えばおつきの女房が主人がそばにいるのに無駄口が多かったり、身分が上の姫に対してかなりはっきりとものを言ったり、姫なのに姉御のように話す姫がいたり……などの「朝廷もの」としての世界観がおかしい! という声です。

わたしも序盤で「…ん?」と思いましたが、わたしは朝廷ものの小説といえば「なんて素敵にジャパネスク」ぐらいしか読んだことがないし思い入れもないので、この辺については「…まあ、この世界ではこんなかんじなんだね」と思ってスルーしました。

ですが、これも「朝廷もの」としての物語を期待して読んだ読者や朝廷もののファンには受け入れらないのは分かる気がします。
これは好みと、そして作品になにを期待していたかによって許せる許せないが出てしまう問題なので、もう、なんかほんと不幸な事故ってかんじ。

※このあと、かなりはっきりと、重要部分がネタバレします。未読の人は読まないでくださいね。

ラストの展開に納得できない人たち

感想のところで先に言いましたが、「作者の想定」から外れた読者が★1をつけています。具体的に言うならば作者の想定よりも伏線を拾わなかった人と、作者の想定よりも深く本を読みこんだ人たちです。

最初の違和感を拾えるか

「夏」が始まってすぐ、さらっとですが、浜木綿が単を着ているという描写がでてきます。ここで初めてタイトルの「単」を着ている姫が描写されるのです。これに気づいた読者は、選ばれる姫が浜木綿であることに納得します。むしろ、浜木綿じゃないなら納得できる要素を提示しろよ、と思いながら読み進めます。

ストーリーの主軸に置かれているのは、誰が桜の君となるのか? なので、題名を回収しないと許さないぞ、と思って読んだ読者は、ラストでやっぱり単は浜木綿か、と納得できるのです。

あせびの君はサイコパス

あせびの君は序文のミスリードから始まり、終始ヒロインとして描かれます。ですがちょっといい子過ぎるというか、あせびの君は主人公なのに、心情があんまり見えてこないのです。

確かに内気で純粋で……というキャラクターとして描かれているため、そこまで変な感じはしないのですが、ところどころ出てくる違和感を持ちながら読み進めるうち、「あせびの君って本当に語り部として信用できるのかな?」という疑問が頭の片隅に浮かんでくるのです。

また序盤、東家での父と娘の会話で、「東家二の姫」は父に愛された娘として描かれています。でも、彼女には仮名がない。この世界では「妃候補」じゃないと仮名がないのかも? と解釈して読み進めますが、愛する娘を呼ぶときに「二の姫」と呼ぶなんてやっぱり違和感。

仮にそうだったとしても、愛するお父様だったら、登殿前に美しい名前をつけてくれれば良いじゃないか。

そして「事情があり本邸には住んでいない」と言われていた事情がどこまでも明かされないのも、あせびの君を信じきれない要素です。

あせびの君に感情移入して読んでいたのでラストの展開についていけない、伏線がないと思った人は、このような読者視点での違和感を拾わずに読み進めたために、ラストで彼女がサイコパスで、彼女視点でみているものは、全て自分のよいように曲解されているということを受け止めきれなかったのだと思います。

若宮が言うように「彼女は自分が悪い」とはちっとも思っていないのです。

だから、私たちが読んできたあせびの君のモノローグ、セリフは、全て信じることができないのです。
ここでゾッとできるかどうか、これがこの作品の評価を決める一つのポイントだと思います。

ただ、これは構成にまだ改良の余地があるというか、全体的に描写不足で、わたしも納得できていない点があります。この「納得できていない点」が大きなマイナス要素となって★1をつけている人も多くいました。

答えだけ言われても、分からないこと多すぎ問題

納得できないことの例を一つあげると、作品の時間軸よりも前に姉の双葉を陥れていたというところです。
ラストでは「日嗣の御子を手に入れるためになんでもする」ということでまとめられていましたが、最初に彼女は姉に同情し

新年の宴に出ていたのが自分で、休んだのがお姉さまであったならよかったのに、と呟かずにはいられなかった。

とあります。でも、陥れたのは自分なんじゃ? これも、悪気なく計算できる彼女の算段ということ? うーん、でも最初から若宮を手に入れるために、自分が登殿するためにやったんですよね?

でも、それにしては“若宮が「あのときの男の子」だと気づいたのは、登殿した“後”だという描写があります。

若宮さまだった。あの時の男の子は、若宮さまだったのだ。
「嘘みたい」
でも、間違いないという確信があった。

ここは、

(本当は知っていたけど)若宮さまだった。あの時の男の子は、若宮さまだったのだ。
「嘘みたい」(にうれしい~かっこいい~ やーん)
でも、間違いないという確信があった。

みたいなことですか?

あせびの君の行動は読者目線から見ても信頼できないということは理解しましたけど、それを知った後でもなお、彼女の行動が不可解すぎて飲み込めないことが多すぎます。

純粋な叙述トリックというわけでもなく、読者の違和感を計算ししつつどんでん返しを行うところがこの作品の面白さです。
そして叙述トリックものは、作品を読み返した時に、初回とはセリフの意味、行動の意味が変わって見えるところを楽しむものです。でも、あせびの君のセリフ、行動、モノローグにはたくさんの疑問が浮かびます。

この点で★1のレビューを書く人がいるのは、ちょっと仕方がないことなのかなと感じます。

面白い。でも構成と描写をもっと丁寧にしてたら傑作だった

『烏に単は似合わない』、わたしは★★★☆ 星3.5の評価でしょうか。
「面白かったけど、構成と描写をもっと丁寧にしてたら傑作だった」というかんじです。作者の中では上記の疑問もきちんと答えがでているのかもしれませんが、拾い読みで読み返してもさっぱりわかりませんでした。大方の読者も分からないんじゃないかと思います。

「無駄な描写が多い」というレビューもありましたが、それについては「あせびの君」のヒロイン力を際立たせるため、ミスリードのためには仕方のない部分だと思うし、わたしは許容範囲です。
でも、タネ明かしのあとも飲み込めない描写が多いのは、ちょっと納得できません。それでもわたしが★1ではなく★3.5なのは、タイトルとストーリーの主軸についてはきれいに回収し、伏線もきれいに張ってあったからです。自分がフックとして読んでいた主題についてはキレイに終わったので、あまり腹が立たなかった。個人的に小説を読む時に重要視しているところにケチがつかなかったので、面白かった、と読み終えることができました。

また、娯楽小説だからいいのかもしれませんが、ストーリー以外に主題となるテーマがなかったのもレビューが下がる一因だったと思います。ただ、この辺はアオリで十二国記と比べられたからこそ起こる不満かもしれません。

アマゾンレビューで星5をつけている人たちは、ドンピシャに作者の想定にハマった人たちで、そういった細かいところは抜きに、ネタバラシの段であせびの君にゾクっとし、桜の君に納得して満足した人たち、世界観にハマって入り込んだ人たちなのだと思います。

もしかしたらこの作品はまさにそういった人たちがターゲットの作品で、そこから外れる人はそもそも想定読者ではないのかもしれません。

あせびの君界隈の疑問については、ファンの方の中にきれいに解説できる方がおられるかもしれないので、引き続きネットの海をさまよってみたいと思います。

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • >早苗さま

    コメント&訂正ありがとうございます!(お恥ずかしい…///)
    遅くなりましたが、訂正いたしました。ご指摘ありがとうございました。

早苗 へ返信する コメントをキャンセル

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